1.基本姿勢
●「閉じる」・「開く」の狭間とバウビオロギー
吹き荒れ狂う「ブリザード」と多雪の中で
 吹き荒れ狂う「ブリザード」と多雪の中で生活している。大和言葉の「吹雪き」という
繊細な情感が当てはまる自然ではない。ブリザード(地吹雪)の道路は命がけである。前
後左右ほとんど見えない状態で車を運転する。全く見えなくなる状態も暫し続く。路面は
アイスバーンである。ブレーキを踏む勇気がない、恐怖である。多雪と吹き荒れ狂う「ブ
リザード」の中での生活は、自然との、自己との闘いである。

 真冬に、東京に出かけ感じることは、凍てついた夜行寝台列車に乗り込んだ11時間後
に到着する翌朝の晴天の穏やかな東京の気候を見て、同じ国(文化)だろうか、やはり系
列が違うと考えざる得ない。冬の厳しい分、冬仕度を終えた頃の12月の海がしけた時に
採れるハタハタ、それに寒ブリ、タラ、サメなどの魚や、ナタ漬け(鉈で粗っぽく削った
大根をシャーベット状に凍らせた漬け物)などのガッコ(漬け物)が美味しい。冬は熊が
冬眠するように、春の仕度をしながら家屋でじっと春がくるのを待つ。真冬日が続き凍て
つき、すべてが凍りづけになる。屋内でも日射が少ない暗らさと寒さを我慢し続ける。

 家の中の暗さと寒さの我慢から開放されたのは、20年ほど前に高断熱・高気密・全室
暖房・計画換気住宅が考えられてからであり、北東北の長い歴史のなかではほんのちょっ
と前のことである。郊外の樹立ちにある仕事場のアトリエは高断熱・高気密であり、暗さ
と寒さの我慢のストレスがない。幅7間半の広いガラス張りの窓の向こうはブリザードの
冬将軍である。思考に行き詰まったり、疲れたりすると外に良く出るが、室内で体が芯か
ら暖まっているから、外に出ても寒くない。街の中の自宅に帰る時も、冷えた車内でも寒
さが負担にならない。

 我が家は高断熱・高気密住宅が登場する前のつくりだから寒い。ガンガン焚いたストー
ブがある居間からドア一枚を開けると北極である。はだしでは余りに冷たく歩けない。ト
イレに行くのも覚悟がいる。風呂は洗い場の寒さと湯船の熱さで地獄である。浴室で死ぬ
人数は交通事故の死亡人数とほぼ同じだという。寒冷地の割合では、浴室で死ぬ人数のほ
うがはるかに多いであろう。芯から冷えている体にはこたえる。

寒流(閉じる)と暖流(開く)のぶつかり合い
 僅か20年ほど前に寒冷地住宅が、リマン寒流のように北方の北海道や北欧から閉じる
(シェルター型)住宅の技術導入されるまでは、住居の考え方は対馬暖流のように南方の
京都や東京から開く(開放型)伝播されてきた。

 リマン寒流と対馬暖流は北東北の日本海でぶつかり合っている。太平洋側では千島寒流
と黒潮暖流がやはり北東北の三陸沖でぶつかり合っている。この両地域は魚の宝庫である。
他には津軽海峡の動物分布上の境界線のブラキストン線、瓦の凍害ライン(秋田市と本荘
市の間)がある。歴史上でも北東北は、日本が源頼朝に統一され大和一色になる直前まで
は、北方の蝦夷(エミシ)と南方の大和がぶつかり合う所であった。それ以後はほとんど
が南からの影響である。

 数少ないが残された北方系の閉じる住居類(シェルター)をあげると、縄文時代では岩
手県一戸町の御所野遺跡の土葺き屋根住居、能代市の杉沢台遺跡などの大型住居(三内丸
山遺跡の大型住居も同様)、古代では秋田県鷹巣町の胡桃館遺跡の板壁・板屋根・板床住
居、中世では馬蹄形蝦夷館城柵、近世では民家に中門造り、茅壁、土縁、雪板、防風柵な
どがあげられる。

 土葺き屋根住居の遺跡は、御所野遺跡の他に群馬県の中筋遺跡(5世紀末)と黒井峰遺
跡(6世紀)などがある。この遺跡は冬の家と考えられる竪穴式の住居と、夏の家と考え
られる平地式の住居がある。冬の家の屋根は茅の上に土を葺き、さらに土の上に茅を葺い
ている。土は断熱・気密の機能を果たし、その上の茅葺きは土の風雨からの保護層となっ
ている。
 冬の家の室内には、片隅に粘土をかためたドーム状に成形したカマドが築かれ、煙突で
室外に排煙できるようになっている。現在、スイスやドイツの田舎によく見られる、カマ
ドと暖房を兼ねたカッヘルオーフェンである。煙突の歴史はヨーロッパでも古くはなく、
都市住居でも中世・ルネッサンス時代にはまだ普及されていなかった。
 北海道南茅部町の大船C遺跡からは、深さが2mから2.4mの地下室をもった2層式の
大型竪穴式住居が発掘されている。地下室は寒さの厳しい冬に、有効に思われる。

地域密着型高性能住宅
 私が学生であった頃は高断熱・高気密の概念は未だなかったものの、寒冷地住宅の設計
課題や講義があった。環境計画では表面・内部結露、暖房、換気を手計算していた。建築
のデザインを学ぶために建築に入った私にとって、慣れない記号と方程式に数字を入れ永
遠と計算することは最も苦手な作業であった。電卓はない頃であり、暗算と計算尺が出来
ない私は、幾度も途中の計算ミスにより最後まで答えがでることはなかった。

 しかし、その努力によって、計算はできないものの、熱、水蒸気、空気の流れなどの目
に見えないものを、数値と論理で把握できることが出来るようになった。この事は財産と
なり後に大きく役立っている。建築を、デザインとして感性の結果のみで考えることはで
きなくなった。「水は高い所から低い所に流れる、それに逆らうデザインは雨漏りする。
デザインは水が下へ下へと流れるように考えること。」の吉村順三の言葉が好きだが、熱、
水蒸気、空気も一緒のことと思われる。

 空気は暖められると上昇し、室内の高い所にたまった暖かい空気をファンで強制的に床
下に下げるのがOMソーラーなどを初めとして見られる。しかし、20年程前の当時北海
道工業大学の菊池弘明先生の住宅は、二重になったストーブの煙突の外側に沿って暖めら
れた空気が、逆に吹き抜けの高い所に自然放出されていた。何にもしていないのに9mも
ある吹き抜けの上下の温度差が1度以下でほとんどなかった。躯体として温熱環境を考え
れば、機器に頼らなくても非常にシンプルでローコストに済むのだ。基本に忠実であれば
それ以外に何にもなくて良い、これがその後の私の基本姿勢になった。

 私が生まれ育ち、現在もこの地で設計をしている能代は「木材の都」と呼ばれ、木に親
しんできた。卒業後、青野環境設計研究所に入所し、教えを受けた青野直樹は北海道の栗
山周辺の原生林開拓を経験した建築家であった。私や職人が知っている木は製材され加工
された木材であるが、青野は原生林を、その中の生きている木を知っていた。そして自ら
の体を使って斧で伐採し、住む家を木材で組み上げ、農地を開墾してきた。斧を握り原生
林の木々と格闘してきた指の太さは、職人の3倍はあった。職人は仕事が出来る証として
指の太さをよく自慢するが、青野の太い指を見るだけで、後は何にも言えなかった。この
設計事務所でさらに木造建築が好きになった。

 その後の、19年前に能代市にUターンし、建築設計以外に、身近な集成材工場や建具
工場と住宅部品や木製サッシの開発にあたった。この期間に大野勝彦、藤澤好一、野辺公
一と出会い住宅生産、部品化の手法を学び、地域密着型住宅生産と高断熱・高気密住宅と
を課題とする。

地域密着型高断熱・高気密住宅の活動
 新住協は新木造住宅技術研究協議会の略称であり、15年前に北海道と東北を中心にで
き、現在は全国に会員がいる。高断熱・高気密住宅の工法の標準仕様が定まっていない頃、
在来木造住宅を断熱・気密化するため、気流止め及び防湿・気密シートを用いた改良軸組
工法の研究・改良、研修、普及のための会である。改良軸組工法は後に新在来工法と呼ば
れている。室蘭工業大学の鎌田先生を中心に、全国の地域の工務店、設計事務所、建材メ
ーカー・販売店、大学や公共の研究機関が参加し、特定の営利団体からは独立した開かれ
た民間の技術開発集団である。システムサプライヤーや建材メーカー主導のフランチャイ
ズが大流行のなかにあって、こうしたオープンで地域色豊かな集まりは希少価値である。

 この会が出来るまでは、17年ほど前に、内地でいち早く高断熱・高気密住宅をつくり
始めた北の住まいを考える会と共に、工務店と協力しながら寒冷地住宅づくりを実践して
いた。この会は5万5千の小さな能代市内での動きであり、設計事務所、工務店、職人、
現場、建主と車で10分足らずの近距離なことから、密接にコミニケーションができ密度
の高いノウハウを積み上げることができた。
 当時は高断熱・高気密住宅の実際的な手本はほとんどなく、自ら、設計で考え、現場の
施工で考え、また設計で改良し、現場に反映するなどの繰り返しから出来上がったものは
今日でも財産である。しかし、他より優位性を保つため気密を限りなく0に近づける、窓
を開けてはいけないなどと技術的にマニアックになったり、使用材料が一部メーカーに偏
ったり、理不尽な営業展開が全面に出てきた。

 このような方向では、設計事務所として馴染めなくなり、以前からコミニケーションが
あった北海道に「新住協」が発足すると同時に、より広く深い情報と活動のため、北の住
まいをつくる会にいた数人と秋田県内の設計事務所、工務店の方々と共に新住協秋田支部
を立ち上げた。新住協は北海道地区本部、東北地区本部に大きく分けられ、他に北関東支
部、新潟支部、長野支部など地域単位でそれぞれの活動をしている。秋田支部は東北地区
本部のなかで活動している。

住宅生産=APシステム(地域密着型 高断熱・高気密パネル)
 私共設計事務所と19年来、地域密着型住宅をつくってきた工務店は高断熱・高気密住
宅の施工は当たり前になっている。しかし、慣れないと面倒くさく思われ目的の性能があ
がらない工務店が多い。どこでもできるはずであるが、大工は坪単価の競争から長い間、
手をかけないことが身に付いてしまっている。高断熱・高気密住宅は見えない壁の中の仕
事である。

 その隙間にシステムサプライヤーや建材メーカーのフランチャイズの色々な工法が出て
きた。高い入会金やコストなのだが、入っていないと時代に取り残されてしまうように思
われるのだろう。ところが、システムサプライヤーや建材メーカーのフランチャイズの大
きな資本による、数千棟、数百棟単位の大量生産はパネル化に物流・商流で不利となって
いる。地域の小さな資本の工場がそれほど設備投資をしなくても、地域に即した仕様で小
回りが利く百棟前後の生産体制が望ましい。後は、そうした工場のネットワーク構成であ
る。

 断熱・気密は現場施工がローコストで早く、シームレスだから性能も良いはずである。
しかし、新住協の会員が増えるに従って、簡単に高断熱・高気密住宅ができることが望ま
れた。そうした中で鎌田先生が考えられたのが新住協のPFP工法である。私の方も、1
9年来の工務店が行けないような遠い地域から設計の依頼が増えてきて、性能を担保する
ような工法が必要になった。

 PFP工法は北海道も含んでいるので、東北により密着するようにローカライズしたも
のがAPシステムである。PFP工法はオープン工法なので、各地域でこれを元にして掘
り進めていけばよい。APシステムはアテルイパネルシステムの略称である。
 アテルイは平安時代の中央集権に抵抗した東北の蝦夷(エミシ)の英雄である。北国で
生まれた独自のものがあってよい。APシステムのローカライズ及び開発は西方設計があ
たり、製造は隣り町の隣りの合川町の集成材メーカーの二ツ井パネルである。具合良くパ
ネルの名称がついているは、先代が杉板パネル(型枠)を造っていた名残である。資本も
小さな地域密着型住宅生産システムである。APシステムも当然ながらオープン工法であ
る。

エコロジー、バウビオロギー建築 (閉じると開くの融合)
 能代は「木都」と呼ばれるほど国内外の木材が運び込まれ加工されている。量産集成管
柱を始めとし、大断面集成材、木製サッシ、内装パネル、外装材、内装材、銘木などと集
積力がある。
 APシステムは今後こうした中で自然材料と関連づけられていく。近くには、珪藻土や
ゼオライトなどの資源も豊富にある。APの中には現状では高性能グラスウールが入って
いるが、エコロジー・バウビオロギー対応型は軽量軟質木質繊維板を断熱材に使用出来る
ように、能代市内のハードボード工場と試作している。

 軽量軟質木質繊維板はこれからの自然素材断熱材の主流となろう。膨大な量の植林と伐
採のサイクルが考えられた木材、木材産業からの廃材やリサイクルされた木質繊維から大
量に生産されるからだ。自国の木材であれば最良である。他の自然系のエコな断熱材は生
産量が限られるのが欠点である。廃棄処分もリサイクルでき、腐朽によって土に帰るなど
により地球に負荷が少ない。もちろん人体にも負荷が少ない。施工時には簡便な防塵対策
が必要とされる。

 ’98年のフライブルクや’99年のチューリッヒでのエコメッセで展示されている数
が多く、実際のモデルで外断熱や内断熱の種々な施工方法が展示されていた。フライブル
クから南へ1時間ほどのスタウフェンのエコショップでは出荷待ちの軽量軟質木質繊維ボ
ード断熱材が山のごとく積まれていた。軽量軟質木質繊維ボードは日本ではまだ、流通と
常時生産がなされていないが、軟質繊維ボードをもっと軽くして断熱材の効果をもたせた
ものである。軟質繊維ボードは床下地のビルボード、外壁下地のアセダス、畳床などのA
級インシュレーションファイバーボードである。A級インシュレーションファイバーボー
ドのなかでも、最も比重の軽い畳床の軟質繊維ボードで比重は0.25前後なのだが、断
熱材になるドイツの軽量軟質木質繊維ボードの比重は0.16前後である。

 今後の課題は高断熱・高気密・全室暖房・計画換気を基礎にしたエコロジー、バウビオ
ロギーの住宅建築を如何にローコストに提供できるかである。高断熱・高気密・全室暖房
・計画換気でコストが増し、自然素材を使用するとさらに増し、庶民が住めるレベルでは
なくなってしまう。エコロジーの中に、省エネに特化した高断熱・高気密が含まれるが、
北方系から発したそれまでなかった合理的な工法は南に普及すると共に、夏を考える必要
が出てきた。夏を考えるとは、自然条件の厳しい冬に閉じシェルター型となり、他の季節
には開口部が開き開放型になれる機能とデザインをもつことである。日本の住宅において
閉じることはまだ経験が浅くデザインや文化に至っていないが、開放型の住居は日本の伝
統で優れたデザインや文化の蓄積があり、これからの両者の融合が楽しみである。


●住まいの「しぜん」なデザインと機能
化学物質過敏症、環境ホルモン、環境評価などのバウビオロギーを未だ意識していない頃の、5年前の1995年に書いた文章ですが、基本姿勢が知れると思います。

[1]デザインを考える前の意識の持ち方
 デザインというと、コマーシャル側に引きずられる。意図的な、恣意的な意味あいが 強い。 一時、一瞬、断片的、綺麗などが思い浮かぶ。住まいのデザインは時間のスケールが長 い。普通、標準、馴染み、機能などが思い浮かぶ。私の住まいづくりは、年に15棟く らいの設計している。専業の独立した設計事務所であり、施工は高断熱・高気密をやり だして十数年来の工務店5社とのネットワークである。  設計を頼まれるのは、住んだ人の紹介、知人の紹介、できた住宅を見たりの口コミが 殆どである。こちら側の考え方やデザインを知ってくれている。デザインに関する注文 は、洋風、和風、和洋折衷など大まかな希望がある。私は住み手の好みや願望にそって いきたいと考えている。このことは大切なことであるし、私にとっても新鮮さを保つこ とができる。それでも、ワンパターン化していると言われるが、その都度の積み残しが いっぱいある。  パターン化の積み重ねで精度を上げていくのも一つの道筋である。設計するという行 為は密度を上げていくのにエネルギーと集中力が必要である。別の観点から述べると、 ワンパターン化していくことだと思う。だから逆に、人の言うことは聞くように勤めて いる。自分の考え方ばかりではなく、住む人たち、工務店などの考え方がそれぞれあり、 これらの関係から物事が生まれてくるように思われる。住む人も、我々もそれまで育っ てきた環境や自分の好みで、デザインの嗜好性や自分流の住まい方をもっているし、こ れからももちたいと考えている。幸いに私どもに住まいづくりを頼まれる方は同じ方向 性を持っている。   私は結果としてのデザインはもちろん大切なことだが、これは個人の直感的な才能 にかなり影響されるものだと思う。最後の一筆で解決するようなことも間々ある。恣意 的な綺麗なデザインで大切なものを落としてもすべてが良く見えてしまう危険性を伴っ ている。綺麗なデザインだけでは物足りない。住まうこと生活すること経済性などは綺 麗なデザインだけではおさまらない。  住まいづくりに関してやれることはやっておきたい。私の住宅づくりの大切なことは デザインの表面に隠れている物事の進め方、流れ、システム構造などに密度ある筋書き を作り上げることだ。これがデザインに表出してくれれば幸いだ。   花は美しい。赤や黄やピンクの色鮮やかな花、山野草のような清楚な花。色合いや 姿形がそれぞれだが、誰もが見ても美しいという。緑の木立や森も美しく安らぎを与え てくれる。デザインはこんな関係でありたい。好きな建築家、吉村順三の言葉の「水は 高い所から低いところに流れる。建築の雨じまいの納まりはこれで決まる。逆らったら 雨は漏る。」が印象深く、私に考え方の基本になっている。雨や風や日射などの自然条 件もあてはまる。  これに、高断熱・高気密住宅は水蒸気や熱の流れの要素が入ってくる。水蒸気は水蒸 気圧が高いところから低いところに流れ、露点温度以下の所では結露する。水蒸気や熱 の流れなどの目に見えなく、体感できにくい現象を科学の基本理論や想像力で把握する。 このことが住宅づくりを大きく変えた。こうした流れに沿ったデザインが生まれてくる ように願いたい。根幹なデザインである。丸が好き、三角が好き、赤が好き、などは話 し合いながら決まっていく。 [2]性能とデザインは一体  住宅を考えるときは、プランニングやデザインのみに関心がいきがちだが、北国では 断熱や気密の性能が問われる。断熱や気密の性能をよくし暖冷房効率を高めることは、 省エネルギーコストで室内気候を良好にする。有限な地球に優しく、エコロジーでもあ る。住宅全般の性能には暖かさ、涼しさ、省エネルギー、耐久性、環境、健康、安全な どの大項目があげられる。最近の話題としては、性能というと暖かさに関係する断熱と 気密の性能だ。此の二つの性能は数値化でき、客観的に評価できるのが特色である。そ れまでは住宅について論ずるのは、使いやすい、機能、デザインなどと感覚的、個人の 好み的な曖昧な事柄であった。 性能・形・デザイン  断熱や気密の性能は形と関連が深い。単純で四角の壁にに三角の屋根が乗った北欧や 北海道典型的な住宅と、本州などの平面的にも立体的にも凸凹した住宅とでは、性能が 3割ほど違う。断熱・気密の性能を上げるには形を単純にすること、窓を小さくするこ とである。断熱空間をシンプルな箱形にし、断熱空間以外の風除室やサンルームや食品 庫などを箱の外側につける。ガラス張りのサンルームや風除室は明るく開放感を箱にも たせ、デザインとしてアクセントになっている。  だが、本州など人はこれでは満足できない。自然条件の厳しさの度合いによって、対 応のしかたから微妙に違ってくる。寒さばかりでなく、乾燥、暑さ、湿潤、風の強さ、 日射の多少などの要素が複雑に絡んできている。さらに、これらの自然条件にもとづい た違った風俗習慣の影響もある。逆に地域性がでて全体的に豊かな住環境になる。  私がいる秋田では断熱の性能を北海道の北方型住宅にならって熱損失係数1.5にし ている。しかし、窓が大きく形が凸凹な秋田型住宅の場合は熱損失係数を2までにして いる。自然条件を考慮しての数値である。熱計算をしながらチェックし、窓の大きさの 変更、Low−Eガラスの使用や凸凹を変更したり、断熱材を厚くしたりの工夫をして いる。熱損失係数や内部取得熱や太陽熱などの自然エネルギーなどから暖房のエネルギ ー消費量を計算し、灯油代から実感として省エネルギー効果を計りながらデザインして いく。形のデザイン決定要素の一つに性能の計算値が大きく影響している。気密に関し ては隙間相当面積が0.4から0.7の高性能な数値が多い。    木造住宅の場合は熱容量が小さく温度の安定が困難なことと、日射が入ると冬でも室 内がオーバーヒートしてしまう。デザインにはあまり関係しないが、基礎外断熱にして 熱容量の大きい床下の基礎のコンクリートや床下土間の防湿コンクリートを蓄熱層に利 用する。地下水位が低い場合は大地そのものを膨大な蓄熱層としてしまう。冬は約18 度、夏は約23度と冬に暖かく、夏に涼しい。地熱の利用ができ省エネ性能でも良好な 室内環境づくりにも有利である。基礎の外断熱は床下空間を利用して設備配管を露出で きメンテナンスに優れている。物置にも利用できている。  基礎の外断熱はいろいろな利点があるが、施工しやすく気密の性能があがるのが大き い。屋根断熱も施工しやすく気密の性能が良い。水平な天井面に断熱材を施工するので はなく、勾配のある屋根面に断熱施工する。屋根裏が室内空間になり室内の気積が大き く、さらに床下の気積も足さされ換気に有利である。屋根裏部屋ができ便利なと、勾配 天井に梁が露出し、デザイン的に豊かな内部空間となる。外部空間としても天窓がつい た大きな屋根は魅力あるデザインだ。 性能・窓・デザイン  壁、屋根、床の断熱・気密性能は上げやすいのだが、窓などの開口部が弱点である。 熱の損失が大きい所なので、面積を小さくすればいいのだがそうはいかない。冬や春や 秋や夏の豊かな四季を室内で享受するには開口部が大きくあって欲しい。また形が単純 であればあるほど開口部の豊かな表情が必要であり、重要な役目をになう。  性能はもちろん大切だが、性能の良い窓は北欧などに見られるように、厳しい自然環 境や防犯から家族を守る防護シェルターの壁にあいた必要最小限の穴である。したがっ て窓自体も重装備である。窓を開けるのはガラスを掃除する時の内開きと、夏場の換気 の内倒しや、専用の換気窓が小さく開くものであり、日本人のように窓を大きく開ける 習慣はない。窓は基本的に開けなかったり、ガラスの嵌め殺しの考え方である。  本州などでは高性能を保ちながら大きく開ける慣習にあった窓が欲しい。日本の伝統 的な住宅は柱と柱との間が壁ではなく、風通しの良い建具であったり、何もなかったり する。開口部はあっても窓がない。そうしたことからシェルター的な窓を考えるのが苦 手である。  日本の窓は開け放つのが基本である。私も高断熱・高気密住宅を知るまでは、建築家 の吉村順三の伝統をもとにした木製の開口部のおさまりを随分と研究したものだ。高性 能な窓に日本的な要素を取り入れるのに随分と役にたった。  吉村順三の窓は、いつもは大きく開け放たれ、戸袋の中に収まっている。柱と柱の間 は何もなく外部と直接に通じているが、長い庇や濡れ縁などの中間領域とあいまって、 開口部周りは段階のある魅力な空間になっている。  明治以前の、ガラスのまだない、典型な伝統的建築空間作りである。吉村順三はこれ らと逆に嵌め殺しのガラスを使うことも多い。現代建築としてガラスを上手に使った、 光が透ける、又、反射する主張性のある大窓も素敵である。  また、住宅の現代の開口部は、他の建築部材には少ない、動きのある部材である。日 本の伝統が弱い所でもある。開口部は人々が出入りする動く所であり、通風や換気など の呼吸する所であり、色々な意味合いで外と内を関係づけたり遮断したりする重要な部 分である。吉村順三は、窓のこうした事柄を考慮にいれ、ある程度の水密や気密をも考 えたおさまりは密度が高く、またデザイン的にも優れている。  このように、伝統・慣習と現代と性能が融合した窓の思想から高断熱・高気密の開口 部を考える必要がある。シンプルな外観にとって表情がでてくる開口部はデザイン要素 として重要である。アルミやプラスチックサッシだけでは性能や機能やデザインに物足 りなく地域生産の木製サッシを使用している。 性能・住宅木材部品・デザイン   私がいる能代の地域産業である木材産業のなかで木造住宅の木材部品を考えたり、開 発したりの機会が度々あった。木製サッシもそうした物の一つである。木材の乾燥によ る収縮も気密の性能に大きく関わり人工乾燥材や集成材も当初から使用できた。外装や 内装に多用している板張りは感覚的な好みばかりではない。湿度調整や結露防止に役立 っている。木材はデザインとしても自然の材質感豊かさが役立っている。今では火災で 住まいを消失するより、腐ったりで建て替えてしまう方が圧倒的に多い。 [3]平面そして立面デザインの基本と空間をどう創造するか  平面は住まい方や機能から始まり、立面は雪や光などの自然条件を満たす他に感覚的 な要素が大きい。平面と立面の両者が組み合わさっているのが空間である。設計のプロ は平面と立面と空間が別々にあるのではなく、渾然と一体になっている。この能力は指 向性と訓練によると思われる。私の住宅設計はつくるというより、未だ見えていないが 先にあるものを探し求めていく意味あいが強い。  道路の位置、南北の方向、敷地の形状、自然条件、法規制、家族が望む住まい方・嗜 好性、住宅の大きさ、予算などの条件によって荒削りながらも物語の方向性が潜在して いる。これを幾重にも幾重にもデッサンして探し求めていく。敷地に関すること、自然 条件に関することは逆らわないであるがままに進めていく。  屋根の形(デザイン)は雪をのせるか、落雪させるか、この二つの混合か三つのタイ プに分かれる。落雪タイプは屋根の流れの向きが敷地のどこに雪を堆雪させるかで決ま ってくる。敷地の形状と住宅の配置が大きく関与する。南側の大きな開口部は夏の直射 日光が入らないように一階部分に庇が付くなどほりの深いデザインになってくる。住ま い方や嗜好は話をしながらくみ取り、たたき台をつくって具体化していく。これの繰り 返しで、住まい手自身も設計者も希望することが見えてくる。  機能的なことの他に人々の嗜好は様々である。「できる限り大きく住まうため、音は 少々我慢し、広間的な間取りで吹き抜けがある。」「音やプライバシーを考えて、部屋 を分離化し廊下でつなげる。吹き抜けはいやである。」和風、洋風、和洋折衷、民家風 などいろいろである。しかし、私の住宅づくりの方向性がハッキリしているので、これ らを見ての頼まれ方なので進めやすい。打ち合わせが重ねられ考え方が固まってくると、 住まい方のボリュームがそのまま空間構成となるのだが、同時に自然、敷地などの外的 条件が加味されている。荒空間が見えてくる。 [4]環境との調和  ここでの環境の意味あいは、環境共生や省資源・省エネルギーや環境汚染など環境、 ランドスケープ的な町並みや家並みとしての環境の二つの種類の環境である。紙面が限 られているので後者を省略し、前者を主体に進めていく。  日本の住宅は平均18年前後で潰されてしまい、限りある地球資源を大量に食いつぶ し、浪費し、地球や地域環境に大変なダメージを与えている。住宅生産や部材生産や廃 棄処分に関わるエネルギー消費を少なくすると共に、住まうこと自体をも暖房や冷房な ど省エネルギーにし なければならない。  私が木材を多用するのは材質感が好きであるとかデザインがしやすいなどの感覚的な ものだけではなく、上記の事柄を考えてのことだ。日本の戦中・戦後や、東南アジアで 森林を皆伐して禿げ山にしてしまい、洪水や温暖化やオゾンを減少させたりで自然のリ ズムを壊すのでなく、伐採と多少多めの植林で循環することが必要である。そうするこ とで自然環境を良好に保ちながら、木材は再生でき持続して使用できる材料である。  樹木が育つのに二酸化炭素をどんどん吸い込み蓄積し、大気中の二酸化炭素を減少さ せる。他に空気を浄化し、大地に保水する役目も果たしている。落ち葉などは地味を豊 かにし、生物体系を維持するのに役立っている。伐採された後は、住宅の柱や梁や内・ 外装材としてそのまま二酸化炭素を保持し、二酸化炭素の減少に役立つ。性能が良く長 寿命な住宅は50年以上、百年以上の耐久性があることから、森林が再生されるサイク ルとリンクさせたい。住宅の寿命がつき廃棄処分されても、木材は腐食して地味を豊か にし大地に戻る。  高断熱・高気密の住宅は乾燥する工法だから、木材も含水率が12パーセント前後と 乾燥し、腐ることはない。風雨にさらされる外壁に使用した場合も20年くらいでダメ になることはない。現在、腐っている下見板は厚さが9ミリと薄く、それも戦前の物と か、戦後の間もない頃の物だから、少なくとも40年以上はたっている。工業化製品で こんなに長くもつ物は少ない。素晴らしい材料であり、利用しない手はない。  これほど強い材料だから、土台にひばなどを使い、毒性の強い防腐土台は使っていな い。人体に悪い。また、下見板の耐久性を増そうとして、毒性の防虫剤入りの塗料を塗 ることは避けたい。毒性が風雨で落ち大地を汚染してしまう。外壁下見板にも毒性のな い木材保護塗料(オスモカラー)を使っている。私の事務所の杉板外壁は何も塗ってい ないが、自然にシルバーグレイになり、私のお気に入りの色合いである。  木材は住宅部材製品化する生産エネルギーはアルミや鉄などと較べて非常に少ない。 木製サッシを例にすると、アルミサッシは木製サッシの140倍も必要である。炭素量 は約30倍を放出し、炭素保有量はない。木製サッシは炭素保有量は5.6kg/平方 メーターである。木製サッシは木材使用の低い部材なのだが、それでもこんなに環境に よい数値を示している。木材を使用するのは目に見えるデザインだけではなく、目に見 えない生産システム、自然の環境循環システムなどとの調和がデザインに現れてくる。