5.筆者が見てきた海外(北欧、ドイツ、スイス)の断熱事情

5-1.はじめに
「日本のマンションにひそむ史上最大のミステーク」著・赤池学・江本央・他と、「「いい家」が欲しい。」著・松井修三の出版により、断熱工法が建築関係者だけでなく社会的な話題になっている。前者はマンション(RC造)の外断熱工法、後者は木造住宅の外張り断熱工法が良いと主張している。断熱工法は外断熱・外張り意外にも数多くあり、一概に外断熱・外張りのみが良いとは言い切れない。木造・RC造・S造などの構造躯体の違いや、戸建・低層・中層・高層などの形体の違いにより、断熱工法は様々な様態を見せている。省エネと二酸化炭素削減の住宅の基本は、木造で付加断熱、RC造・レンガ造は外断熱や二重壁外断熱である。参考例として先進地の北欧・ドイツ・スイスの事情を探ってみる。
ドイツは歴史的にレンガ造や石造の建築が多い。断熱材が無い時代でも、木造に較べ、開口部が小さいことと連続した壁は気密が保て、なおかつ分厚い熱容量の大きい壁は熱伝達時間の時間差により、室内の熱環境は有利であった。そんなことから、冬の気候がさらに厳しく木造建築が多い北欧に較べ高断熱・高気密化はワンテンポ遅れ、本格的に始まったのはオイルショック後で北海道と同じレベルであった。北欧・スイスは歴史的にドイツより木造が多くなっている。北欧は省エネから高断熱・高気密化いち早く進み、北海道のテキストになっていた。

5-2.スイス
一番人口が大きな都市がチューリッヒの30万人を超える程度であり、高層集合住宅は少ない。旧市街は歴史ある石造・レンガ造が多い。都市街区の隣接地は木造の4・5階建ての集合住宅、近隣は低層の木造テラスハウス、郊外は木造やレンガ造の戸建てが多くなっている。木造住宅は断熱材入りのパネル化、住宅部材などの高度な生産化が進んでいる。
エコロジー・バウビオロギー住宅が進行中で、レンガ造から木造が増えている。スイス・バウビオロギー情報協会(GIBB)のエコロジー指数は、木造外壁は8.5ポイント、レンガ外壁は4.5ポイントの評価をしている。レンガは焼成に多量のエネルギー使用と二酸化炭素放出があるからだ。鉄筋コンクリート造は、現場生産が多く建築生産の合理化が遅れていること、鉄筋が磁場を乱すことから嫌われている。レンガ造は発泡プラスチック系・鉱物繊維系などの外断熱である。最近はレンガに変わって断熱性がある有孔レンガ(外壁は構造材と断熱材の役割を兼ねたバックシュタインブロック=穴あき素焼きレンガブロック)が使用され、外断熱で軽量軟質木質繊維板や炭化発泡コルクなどを貼ったり、発泡パーライト混入断熱モルタルが塗られている。構造壁でない内壁はカルクシュタイン(石灰を焼成することなく高温高圧で固めたブロック)になっている。
省エネと二酸化炭素削減の住宅は断熱材が240mm(グラスウール換算)以上であり、付加断熱が多い。一般の木造住宅にも地下のRC造の核シェルターがあり、この部分の断熱材は発泡プラスチック系が多い。スイスは市民レベルの注文戸建ての割合が多く、建て売りや企画型住宅の割合が多い北米・ドイツ・北欧などと住宅生産様式が違っている。州都でも3万人前後の小振りな都市で、住宅を専業とした建築家の生業が成り立ち、地域性豊かな高レベルの住宅生産が行われている。
スイスの気候は小さな国なので、南北ではなく標高差による地域性がある。比較的大きな都市のチューリッヒなどは標高500m前後にあり、東北の中ほどの地域と同程度の気候である。地域の中核都市は標高800m前後であり、東北の北部から北海道にかけての気候同程度である。標高500m程度にある住宅の換気は、計画換気の意識では無く、窓を開けるなどの大らかな考え方である。標高800m前後では寒さが厳しく、計画換気が行われ、寒さの厳しさに沿って、排気型から熱交換型へとなっている。

5-3.北欧
大都市近郊のニュータウンには10階建て以上の集合住宅が見られるが、基本的には旧市街は歴史ある石造・レンガ造、都市街区の隣接地は混構造の中層や木造の4・5階建ての集合住宅、近隣は低層の木造テラスハウス、郊外は木造やレンガ造の戸建てが多くなっている。
混構造の中層住宅は構造や界壁がPC造、防火区画の階段室がRC造、外壁や内壁が木造の混構造である。自然条件の厳しさを、木造断熱パネルで内部のコンクリートを保護する考え方で、外壁がコンクリートな日本と逆である。コンクリートの外壁は外断熱になっている。木造の4・5階建ての集合住宅は階段室・界壁・地下・1階駐車場などは外断熱RC造で、その上階は断熱パネルの木造が多い。外壁の木造断熱パネルと、外部に面した階段室や界壁などのコンクリート部分の外断熱は、共にロックウールやグラスウールが多い。
戸建てやテラスハウスは、歴史的に1階壁がレンガ造が多かったのが、省エネルギーやエコロジーから木造が多くなっている。断熱材の厚さは240mm(グラスウール換算)以上であり、付加断熱が増えている。
計画換気は、南部は排気型計画換気システム、それ以北は熱交換型計画換気システムになっている。寒さが厳しい地域は熱交換器にヒーターが入っている。
  
5-4.ドイツ
北欧やスイスより大型の都市形体が進み、フランクフルトをはじめとした大都市の新市街やニュータウンは高層集合住宅の割合が大きい。旧市街は歴史ある石造・レンガ造が多い。都市街区の隣接地は4・5階建ての集合住宅、近隣は低層のテラスハウス、郊外は戸建てが多くなっている。スイスや北欧と違って、レンガ造類や鉄筋コンクリート造類の割合が大きい。外壁の室内側表面温度と室温の差が少なくとも2℃以内にするには、有孔レンガ造は壁厚365mm(熱貫流率が0.5〜0.6W/m2K)以上必要である。日本の次世代型の外壁は地域˘以西の0.53程度である。これ以上の性能が必要であれば外断熱になる。この場合はロックウール・グラスウール・発泡プラスチック系の外断熱である。ドイツでは発泡プラスチック系の割合が北欧やスイスより多くなっている。