vol.11 断熱材の海外事情1
 
 
 
 
 
■1■ 海外の断熱レベルとポスト次世代省エネルギー基準の比較
 
 
[表1] CO2の国別削減率
 京都議定書が発行され、省エネや良好な温熱環境ばかりでなく、二酸化炭素削減などの環境問題の解決が望まれている。二酸化炭素削減のため、暖房・冷房の省エネルギー、住宅資材の生産、住宅そのものの生産の省エネルギーが求められている。しかも、西欧の国々は原子力発電を増設せずに、二酸化炭素削減を本気で考えている。国別に[表1]のように削減率が定められている。日本の場合は、原子力発電に安易に頼りさらに増設するというが、増設の前に、次世代省エネ基準以上のさらなる高断熱化が必要と考える。

 次世代省エネルギー基準のQ値程度の性能では、全室暖房すると、これまでの個別暖房消費エネルギーの2倍から3倍かかってしまう。二酸化炭素の放出量も2倍から3倍になってしまう。
 
 他の国ではどのように対応しているのだろうか。海外では次世代省エネルギー基準のさらに厳しい基準である。また、Q値ばかりでなく、充填断熱工法の普及割合が多いのか外張断熱工法が多いのかの興味がつきない。
 
 
◆◇ Q値で比べる
 
 日本の次世代省エネルギー基準のQ値を海外の数値と比べると、 l 地域はフランス・ドイツ・アメリカの基準くらいであるが、 ll 地域ではフランス・ドイツ約1.4倍、 lll 地域ではドイツの約1.8倍フランスの約1.5倍、 lV地域ではフランスの1.6倍熱損失係数が大きい[→表2]。ドイツが厳しく、暖房デグリーデーD(18.18)が2000を超え4000を超える地域(日本では lllから l 地域にあたる=おおよそ宇都宮市から旭川市)で熱損失係数が1,35W/(m2・K)。フランスは暖房デグリーデー3000から3200の地域(日本では?地域にあたる=おおよそ青森市)で熱損失係数が1.55W/(m2・K)、2000から3000の地域(日本では lll から ll 地域にあたる=おおよそ前橋市から青森市)で熱損失係数が1.67W/(m2・K)、1300から2000の地域(日本でVから lV地域にあたる=おおよそ長崎市から前橋市)で熱損失係数が1.91W/(m2・K)。イギリスは2200から3200(日本では lll から l 地域にあたる=おおよそ新潟市から盛岡市)で熱損失係数が1.74/(m2・K)。日本の lll 地域の2.4とほぼ同様であり、 l ・ ll 地域にあたる所では性能が日本より緩くなっている。
表2
[表2] 熱損失係数で比較した各国の省エネルギー基準

 
◆◇ 断熱材の厚さで比べる
 
 理解しやすい、断熱材(グラスウール)の厚さでみると、壁の必要厚さは[図1]、屋根の必要厚さは[図2]のようになる。壁の必要厚さは、フランス・スイスでは150mm、フィンランド・ノルウェー・デンマークでは200mm、スエーデンで250mmとなっている。ドイツ・イギリスでは100mmである。天井屋根の必要厚さはフランス・イギリス・デンマークでは250mm、ドイツ・オーストリアでは200mm、スイスでは150mm、フィンランド・ノルウェー・スエーデンでは250mm、スウェーデンは400mmとなっている。
 
図1
[図1] 欧州の壁の断熱材の厚み基準
図2
[図2] 欧州の屋根の断熱材の厚み基準

 
◆◇ ポスト次世代省エネルギーへ
 
 次世代省エネルギー基準といっても、外張断熱がかろうじてクリアできる定められたQ値程度ではなく、少なくても公庫の断熱材の厚さの早見表以上にしたい。この厚さに開口部を樹脂サッシ(Low-Eペアガラス)以上にレベルアップすれば環境や省エネ基準が厳しいフランスやドイツの基準になる。この先々には、 lll 地域以西はフランスやドイツの基準並みに、 l 地域は北欧並みの断熱レベルのポスト次世代省エネルギー基準レベルが望まれる。
 
 
 
 
 
■2■ 欧州における断熱工法の違い
 
 
 断熱の工法は各地の気候条件の違いと共に、石造・レンガ造・校倉木造・軸組木造・枠組木造・コンクリート造・鉄骨造などの構法の違い、都市の街区・郊外・農村などの防火・防犯対応の違いが大きい。
 
 中欧ではギリシャ・ローマ文化の影響が強く、都市の街区では歴史的にレンガ造や石造の建築が多い。北欧では歴史的に森林資源の豊富さと校倉造や芝置屋根(土屋根)などの工夫による寒冷対応木材建築が多い。
 
 中欧では断熱材が無い時代でも、木造に較べ、開口部が小さいことと連続した壁は気密が保て、なおかつ分厚い熱容量の大きい壁は熱伝達時間の時間差により、室内の熱環境は有利であった。そんなことから、冬の気候がさらに厳しく木造建築が多い。北欧に較べ高断熱・高気密化はワンテンポ遅れ、本格的に始まったのはオイルショック後で北海道と同じレベルであった。その当時のドイツは断熱や気密の精度が雑であり研修にならなかったが、新しいもう一つの思想のエコロジー・バウビオロギーが進展していた。 
 最近では,断熱性能がより高くなっていることへの対応で断熱工法が変化している。断熱工法は充填断熱・外張断熱意外にも数多くあり、一概に、日本でブームになっている外断熱・外張断熱工法のみが良いとは言い切れない。木造・RC造・S造などの構造躯体の違いや、戸建・低層・中層・高層などの形体の違いにより、断熱工法は様々な様態を見せている。省エネと二酸化炭素削減の住宅の基本は、木造で付加断熱、RC造・レンガ造は外断熱や二重壁外断熱である。
 
 参考例として先進地のスイス・北欧・ドイツの海外事情を探ってみる。情報量が少ないので、大海の中のインクなのだが、参考になれれば幸いである。
 
 
 
 
 
■3■ スイスの断熱事情
 
 
◆◇ 建築構法
 
 スイスでは古くから石造やレンガ造が多いが、片方では北欧の国々のように森林国であり木造建築の割合が他の西欧の国々より多い。しかし、豊かさの象徴は石造やレンガ造であり、木造は外側を石灰などで塗り固められ一目、石造やレンガ造風につくられてきた。それがエコロジー・バウビオロギーの考え方が浸透してくると木造が再評価されている。
 
 一番人口が大きな都市がチューリッヒの30万人を超える程度であり、高層集合住宅は少ない。旧市街は歴史ある石造・レンガ造が多い。都市街区の隣接地は木造の4・5階建ての集合住宅、近隣は低層の木造テラスハウス、郊外は木造やレンガ造の戸建てが多くなっている。木造住宅は断熱材入りのパネル化、住宅部材などの高度な生産化が進んでいる。
 
 エコロジー・バウビオロギー住宅が進行中で、レンガ造から木造が増えている。スイス・バウビオロギー情報協会(GIBB)のエコロジー指数は、木造外壁は8.5ポイント、レンガ外壁は4.5ポイントの評価をしている。レンガは焼成に多量のエネルギー使用と二酸化炭素放出があるからだ。鉄筋コンクリート造は、現場生産が多く建築生産の合理化が遅れていること、鉄筋が磁場を乱すことから嫌われている。
 
 
◆◇ バウビオロギー協会
 
写真1
[写真1] 会長ボスコ・ビュラー氏からのバウビオデーターバンクの説明
写真2
[写真2] 「バウビオロギー」の編集長のダニエル氏からの説明を受けた解説パネル
写真3
[写真3] ダニエル氏の自宅のエコロジー・バウビオロギー集合住宅
写真4
[写真4] シュタイナー学校に通う子供たち
 
 スイスのバウビオロギー協会は、オイルショックの頃の30年弱ほど前に、鉄筋コンクリート建築や伝統的建築工法に疑問を感じた建築家たちがつくった。その後、GIBBとSIBに発展した。GIBBは企業、建材メーカなどへの情報提供をし、SIBは建築家への教育、セミナーの提供、一般への情報提供を行っている。
 
 スイスは市民レベルの注文戸建ての割合が多く、建て売りや企画型住宅の割合が多い北米・ドイツ・北欧などと住宅生産様式が違っている。州都でも3万人前後の小振りな都市で、住宅を専業とした建築家の生業が成り立ち、地域性豊かな高レベルの住宅生産が行われている。スイスの建築家と言えば、ヘルツォーク、ズミ、メリクリなど雑誌に特集される透明で抽象的な作風の建築家たちが思い浮かぶが、こうした作家とは別な系列があり二重構造になっている。地域の都市で、身近な住まい手の顔が見え、生身の住まい手が住む、具体的に、密度が高いエコ・ビオ住宅建築を設計する、ウルス・ハスラー、ボスコ・ビュラー、フーガートブラーなどの多くのバウビオロギー建築家たちがいる。その先端に、地域の素材と伝統・革新を大切にする、今では日本をはじめ世界的人気建築家になったピーター・ズントーがいる。彼らの弟子などがエコロジー・バウビオロギーを深化・具体化させている。
 
 
◆◇ スイスの気候と建築
 
 スイスの気候は小さな国なので、南北ではなく標高差による地域性がある。比較的大きな都市のチューリッヒなどは標高500m前後にあり、東北の中ほどの地域と同程度の気候である。地域の中核都市は標高800m前後であり、東北の北部から北海道にかけての気候同程度である。
 
 標高500m程度にあるスイスの一般的な木造住宅のグレードは、基本が充填断熱なので枠組壁工法の構成寸法から決まる。標準の断熱材の厚さは240mmである。
 
 住宅の換気は、計画換気の意識では無く、窓を開けるなどの大らかな考え方である。ただし標高800m前後では寒さが厳しく、計画換気が行われ、寒さの厳しさに沿って、排気型から熱交換型へとなっている。
 
 
◆◇ スイスで使われる断熱材
 
◎木造外壁(充填断熱+付加断熱工法)
 木造の再評価は生産エネルギーが低く、再生産(植林)、再利用、リサイクルでき、土に帰ることによる。また木造は壁体や屋根のタルキ間の空隙に断熱材を充填でき、さらに付加断熱することで高断熱化でき省エネに有利になっていることがあげられる。
 多くの場合はグラスウールやロックウールなのだが、エコロジー・バウビオロギーの場合は自然系断熱材が使用される。そのなかで多く使われ実績のあるのはセルロースファイバーである。次に実績があるのは軽量軟質木質繊維板であり、これからの主流になる自然系断熱材とされている。他には使用量が少ないながら炭化発泡コルク、発泡ガラス、フラックス繊維(亜麻繊維)、ハンフ繊維(大麻繊維)、ココヤシ繊維、ウール、コットンなどが使用され、これからさらに普及が望まれる自然系断熱材である。また、スイスでは発泡パーライトの使用例がしばしば見受けられ、自然系断熱材のなかで普及率が大きい。
 省エネと二酸化炭素削減の住宅は断熱材が240mm(グラスウール換算)以上であり、付加断熱が多い[→図3]。エンガデン地域の建築家のウルス・ハスラー[→写真5]はペーター・ズントーの初期の弟子であり、[図3]は氏の設計の標高800m前後に建つ[写真6]の枠組工法の家の平断面詳細図である。壁は厚さ240mmのロックウールの断熱材である。アルプスの山々の渓谷の谷間の2時間の日射で暖房しているパッシブソーラー住宅である。断熱・気密性能が高性能なので、大きな窓の硝子から日射を受けるだけで特別の機械的システムはない。曇や雨で日射が期待できない場合は伝統的な蓄熱式薪ストーブのカッフェルオーフェンを使用する。
 
図3
[図3] ハスラー氏の設計による枠組工法の家の平断面詳細図
写真5
[写真5] ハスラー氏(左から2番目)  
   
写真8
[写真8] カッフェルオーフェン
写真6
[写真6] ハスラー氏の設計したパッシブソーラー住宅
 
写真7
[写真7] ハスラー氏からの原理的パッシブソーラーとカッフェルオーフェンの暖房計画の解説

◎レンガやブロック外壁(断熱ブロック+外張断熱工法)
 レンガ造は発泡プラスチック系・鉱物繊維系などの外断熱である[→写真9]。最近はレンガに変わって断熱性がある有孔レンガ(外壁は構造材と断熱材の役割を兼ねたバックシュタインブロック=穴あき素焼きレンガブロック)[→写真10]が使用され、外断熱で軽量軟質木質繊維板[→写真11]や炭化発泡コルクなど貼ったり、発泡パーライト混入断熱モルタルが塗られている。構造壁でない内壁はカルクシュタイン(石灰を焼成することなく高温高圧で固めたブロック)になっている。
写真9
[写真9] 発泡プラスチック系・鉱物繊維系などの外断熱
写真10
[写真10] 外壁は構造材と断熱材の役割を兼ねたバックシュタインブロック
写真11
[写真11] 軽量軟質木質繊維板を使用した外断熱材

◎屋根(充填断熱+付加断熱工法)
 タルキ間に充填し、さらに外側もしくは内側に付加断熱することが多い。断熱材の厚さは200ミリ前後から300ミリ前後である。これは次世代省エネ基準の地域 l と同じ程度である。充填部分の断熱材はグラスウール、セルロースファイバーなどの吹き込みの物、フラックス繊維などのマット状の物、軽量軟質木質繊維板などの板状の物などである。付加断熱は板状のものが多い。
 
◎基礎
 一般の木造住宅にも地下のRC造の核シェルターがあり地下室や半地下室が多く、この部分の断熱は基礎外断熱で、基本的には発泡ガラスが良いのだろうが、実際には発泡パーライト混入断熱モルタルや押発泡プラスチック系が多い。
 
 
◆◇ 断熱・気密パネル
 
写真12
[写真12] スイスのパネル工場。
写真15
[写真15] セルロースファイバーロース
 スイスの職人の人件費は日本の5倍ほど高いので、現場での仕事は必要最小限に押さえ、できる限り工場生産にしている。個別の戸建て注文住宅でも部品化し工場生産化率が大きい。[写真12]のパネル工場はチューリッヒとバーゼルとベルンにほぼ等距離にあり、3つの都市を結ぶ三角形の真ん中に位置する。スイスの東南部の渓谷のエンガデン地域と違って海抜500mほどのなだらかな丘陵地の牧草地にあり、小規模な体育館程度の面積の枠組み構法の断熱・気密パネル製作工場である。工場内の設備は多種な個別対応から、逆に機械化されていない[→写真13/14]。[写真15]はエコロジー・バウビオロギーが売りのこの工場での断熱材はセルロースファイバーが9割で、残りの1割は防火を考慮した場合のグラスウールやロックウールである。[写真16/17/18]の家はこの工場の断熱・気密パネルからできている。
写真13
[写真13] あえて機械化されていない工場内部
[写真16] 木の外壁を使いながらもシャープなイメージ
[写真14]
[写真17] 写真16の内部
[写真18] 開口部が大きくとられている

 
 
 
 

vol.010
vol.012