vol.12 断熱材の海外事情2
 
 
 
 
 
■1■ スイスの木造標準住宅の基準(1995年以降)
 
 
◆◇ 中欧の典型的な家
 
 中欧の典型的な家は石油かガスボイラーで、暖房と給湯を行っている。暖房機の最大出力は100W/m2(=40坪の家で13KW)が平均的である。
 
 
◆◇ 政策「エネルギー2000」
 ‘90年前半に住宅の基準値として、政府が主導のプロジェクト「エネルギー2000」が展開され、SIA(スイス建築家技術者協会)がエコ住宅を定義した。
 
 新築時の暖房・温水の熱需要の最高限界値=60Kwh/m2・年(=220MJ/m2・年=6リットル/m2・年。40坪の家で7,800Kwh/年、780リットル/年、6,720kcal/年)である。
 
 改築時の暖房・温水の熱需要の最高限界値=110Kwh/m2・年(=400MJ/m2・年=22リットル/m2・年。40坪の家で14,300Kwh/年、1,430リットル/年、12,320kcal/年)である。
 
 省エネハウスでは30〜70KWh/(m2・年)、パッシブハウスでは10〜15KWh/(m2・年)、ゼロエネルギーハウスでは5KWh/(m2・年)と規定している。暖房機の最大出力は、省エネハウスでは25〜35W/m2(=40坪の家で3.25KW〜4.55KW)、外壁・屋根・床のU値はそれぞれ0.27W/m2K(高性能グラスウールの厚さ約150mmに相当)、窓のU値は1.50W/m2K(木製サッシペアサッシトリプルアルゴンガスLow-E)である。パッシブハウスは 10W/m2以下(=40坪の家で1.3KW)である。
 
 
 
 
 
■2■ ミネルギーハウス
 
 
 チューリッヒ州とベルン州では‘97年からいち早く「ミネルギーハウス」(ミニエネルギーハウス)の新しい基準政策が展開されていた。すべての州では‘02から基準を満たす新築・改築が行われると、検査局から人が派遣され、各項目をチェックしてミネルギーハウスの証明書が発行されるようになった。[写真1]はRene Hayoz邸[→写真2]のミネルギーハウスの表示板である。
写真1
[写真1] ミネルギーハウスの証明書
写真2
[写真2] Rene Hayoz邸

 
◆◇ 性能(45Kwh/m2・年を超えない)
 
 ミネルギーハウスの基準は新築時の暖房熱・温水熱・計画換気設備機器用電力の合計の最大限界値が45Kwh/m2・年を超えない。外壁・屋根・床のU値(熱還流率)は0.2W/m2K以下である。窓のU値は州によって違うが、1.30W/m2K(木製サッシトリプルアルゴンガスLow-E)が一般的である。最大限界値はその数値を超えたら許可が降りない値で、目標値は努力してここまで性能をだそうという理想的値である。0.2W/m2Kは高性能グラスウールの厚さ約200mmに相当する。
 
 45Kwh/m2・年は160MJ/m2・年=4.5リットル/m2・年であり、さらに、家庭電化製品の電気使用量は17Kwh/年である。40坪の家では5,850Kwh/年、20,800MJ/年、585リットル/年になる。
 
 改築時(‘90年以前に建った家を改築)は暖房・温水の熱需要の最高限界値=90Kwh/m2・年(=320MJ/m2・年=9リットル/m2・年)。40坪の家に換算すると11,700Kwh/m2・年、1,170リットル/m2・年、10,100kcal/m2・年になる。
 
 
◆◇ 補助金制度
 
 各州では条件は違うが、チューリッヒは40sfr(スイスフラン)/m2の助成金、ベルンは総建設費の3%助成金、ユラは40sfr/m2の助成金、ツークは上限50,000sfrまでの助成金など奨励金制度がされている。また銀行からの住宅ローンの利子が0.5%安くなる。さらに、不動産価値が下がらなく転売の時有利である。日本では築10年たてば資産的価値がなくなる。不動産価値が下がらなければ3千万円で建てた家は退職時に3千万円で売れる。子供が独立し老後に3千万円で売って、半分の小さな家を1千5百万円で建てると、差額の1千5百万円を老後の生活費に足せる。
 
 
 
 
 
■3■ パッシブハウス
 
 
 パッシブハウスでは年間暖房熱需要15KWh/(m2・年)以下であり、外壁・屋根・床のU値(熱還流率)は0.10W/m2K以下(高性能グラスウール16kで厚さ380mm以上)、窓のU値0.85W/m2K以下と超高性能である。他に南面窓を大きくするなど最大限に太陽熱利用、計画換気は熱交換器つきで温水利用、暖房温水温度が50℃以下、全体換気量が0.6回、第1次エネルギー需要(暖房・温水・電気)が120KWh/(m2・年)以下と条件がついている。
 
 
 
 
 
■4■ ミネルギーハウス実例1
 
 
写真2
[写真2] 建築家Rene Hayozの自邸(ミネルギーハウス)
 スイスモダンデザインの[写真2]の住宅は建築家Rene Hayozの自邸のミネルギーハウスである。この住宅はチューリッヒとベルンの中間の海抜約500mに位置し、冬の外気温が−5℃から0℃になる。寒冷は山形市周辺の気候である。スイスの寒冷は海抜で決まり海抜約500mから約800mの地域は、日本の場合は南北に関係し、山形市から函館市に対応する。
 
 
◆◇ 年間熱需要量
 
 年間熱需要量は37.2kWh/m2/年(3.72リットル/m2・年)、電気代は光熱費を含めて5万円である。40坪の家に換算すると暖房熱・温水熱・計画換気設備機器用電力の合計を含んで4,836Kwh/年、483リットル/年と驚異的な高性能住宅である。年間熱需要量のチェクだけでなく、生産時のグレーエネルギーの低消費を試算して建材を使用している。
 
 山形市にある次世代省エネルギー基準の住宅では、暖房熱・温水熱・計画換気設備機器用電力の合計は約27,000Kwh/年=約2,700リットル/年になる。暖房のみでは約1,500リットル/年である。次世代省エネルギー基準の住宅はミネルギーハウスの約5倍性能が悪く、基準まで性能アップするには、外壁・屋根・床のU値をアップしただけでは無理で、熱回収や自然エネルギーを上手く使用しなければならない。
 
 
◆◇ 断熱材
 
 性能の基本になる断熱材は、外壁・天井・床がセルロースファイバー厚さ200mmであり、U値(熱還流率)は0.2W/m2Kである。断熱材が結露のおそれが少ないセルロースファイバーなので防湿シートシートは使用していない。
 
 
◆◇ 日射熱と低温水暖冷房
 
写真4
[写真4] 地中熱ヒートポンプ
 L字型の平面計画で、南面が大きなガラスのヘーベシーベの開口部で日射取得熱が大きい。日射がある時はガラス折れ戸を開放し、直接に室内空間と床の蓄熱層に日射熱を取り込むダイレクトゲインである。大きなガラス面は[写真3]のように外側に四角くガラス折れ戸に囲まれ、その間の空間は温熱環境的に中間領域のサンルームになる。サンルームは南面の大きなガラス面の断熱補強にもなっている。
 
 暖房の主な熱源は地下80mの地熱利用を利用した地下室にある地中熱ヒートポンプ[→写真4]の熱で、さらに熱交換換気システムの回収熱が加えられ、左隣りの貯湯タンク[→写真5]に蓄熱される。貯湯タンクの蓄熱された23℃の低温水は床暖冷房に常時運転利用される。
写真3
[写真3] 南面が大きなガラスのヘーベシーベの開口部
写真5
[写真5] 貯湯タンク
 

 夏場の涼しさ対策は、熱交換換気システム換気のクールチューブ経由で涼しさ、23℃の低温水の冷房、またサンルームの折れ戸の外側や天井部の日射遮蔽ロールスクリーンや屋上緑化で日射の遮蔽をし、室内に取り込まない。またヘーベシーベの掃出し戸を大きく開放すれば通風が効果的で涼しい。
 
 
◆◇ 熱交換換気システム
 
写真6
[写真6] 熱交換換気システム
写真7
[写真7]クールチューブの導入口
写真8
[写真8] 室内の吸気口
 換気は地下室にある[写真6]の熱交換換気システムで、外気はクールチューブ経由で導入される。[写真7]はクールチューブの導入口、[写真8]は室内の吸気口である。冷たい外気はクールチューブを通る時に地熱で暖められた後、熱交換器で排気から熱回収し、さらに床暖房のコンクリートで暖められるので室内導入時には冷たくない。
 
 熱交換換気システムは[写真9]のようにフィルターを簡単に交換できる。フィルターは特殊なものではなく近所のDIY店に売っている。日本の熱交換換気システムはフィルターの交換が難義で、ほとんどの方が掃除や交換をしてくれない。
写真9
[写真9] 熱交換換気システムのフィルター交換のようす
フィルターにはゴミ・カビ・虫が数センチの厚さで付着している。そこを汚れたフィルターを空気が通って室内に入る。フィルターが目詰まりして、欲しい換気量の半分から1/3くらいしか換気がなされていない。そうした現実を多く見せられ、数年で熱交換換気システムは使用せずに、排気型の単純な第3種換気を使用している。現状の次世代省エネルギー基準の倍以上の省エネを計るにはフィルターの問題が解決された熱交換換気システムが必要である。
 
 
◆◇ 太陽熱利用温水器
 
写真6
[写真6] 400リットルの貯湯タンク
写真1
[写真1] ミネルギーハウス評定の表示板
 屋上に4.5m2の太陽熱集熱パネルがあり、その集熱でお湯をつくり地下室の[写真6]の400リットルの貯湯タンクに貯める。ここからの温水は風呂や食器洗いに利用される。[写真6]の洗濯機は雨水利用している。

 
◆◇ その他
 
 地下に暖冷房・換気・雨水などの設備の大元がまとめられ、全体の設備費が約500万円だが、助成金がその分の約500万円でている。その象徴が[写真1]のミネルギーハウスの評定の金色の表示板である。
 
 工法は、前回で紹介したスイスの中央部のグロスデットウィルにあるパネル工場の工場生産断熱材入り枠組工法である。
 
 施工費はスイスではm3単価なので、この家は700スイスフラン/m3(6万円/m3)である。日本風に坪単価に換算すると約59.4万円/坪であり、この坪単価の日本の家と較べると、内容のグレードがすこぶる高い。
 
 エレクトロビオロギー計画最短配線計画を行っている
 
 
 
 
 
■5■ ミネルギーハウス実例2
 
 
写真10
[写真10] チューリッヒ公認412号のミネルギーハウスの家
写真11
[写真11] 核シェルターの扉
写真12
[写真12] 放射能防止吸気設備
 [写真10]の住宅は若手の建築家Reto Brawandの設計で、兄夫婦と母が住む2世帯のチューリッヒ公認412号のミネルギーハウスの家である。スイスモダンデザインで、実例1と同じパネル工場の工場生産断熱材入り枠組工法である。
 
 地下室は核シェルターになっている。[写真11]はその出入り口の扉、[写真12]は放射能防止吸気設備である。この住宅はチューリッヒ郊外のベットタウのはずれの海抜約500mに位置し、冬の外気温が−5℃から0℃になる。
 
 
◆◇ 年間熱需要量
 
 年間熱需要量は40.9kWh/m2/年(4.09リットル/m2・年)、電気代は光熱費を含めて5万5千円である。40坪の家に換算すると暖房熱・温水熱・計画換気設備機器用電力の合計を含んで5,317Kwh/年、531リットル/年と驚異的な高性能住宅である。年間熱需要量のチェクだけでなく、生産時のグレーエネルギーの低消費を試算して建材を使用している。
 
 
◆◇ 断熱材
 
 性能の基本になる断熱材は、外壁はセルロースファイバー厚さが160mm+鉱質ウール厚さ30mmの合計190mmのU値が0.22W/(m2K)である。天井はセルロースファイバー厚さ300mmのU値0.15W/(m2K),である。床はセルロースファイバー厚さ225mmのU値0.19W/(m2K)である。
 
 
◆◇ 日射熱と低温水暖冷房
 
 [写真13]の南面が大きなガラスのヘーベシーベの開口部で日射取得熱が大きい。日射を直接に室内空間に入れ日射熱を取り込む。暖房の主な熱源は地下140m の地熱利用を利用した地下室にある地中熱ヒートポンプ[→写真14]の熱で、さらに熱交換換気システムの回収熱が加えられ、左隣りの貯湯タンクに蓄熱される。貯湯タンクの蓄熱された23℃の低温水は床暖冷房に常時運転利用される。補助暖房は居間にある[写真15]のお洒落なペレットストーブである。
写真13
[写真13] 南面が大きなガラスのヘーベシーベの開口部
写真14
[写真14] 地中熱ヒートポンプ
 
写真15
[写真15] お洒落なペレットストーブ
 
写真16
[写真16] 外付けの大きな日射遮蔽ロールスクリーン

 夏場の涼しさ対策は、23℃の低温水の冷房、[写真16]の外付けの大きな日射遮蔽ロールスクリーンや屋上緑化で日射の遮蔽をし、室内に取り込まない。またヘーベシーベの掃出し戸を大きく開放すれば通風が効果的で涼しい。
 
 
◆◇ 熱交換換気システム
 
 換気は2世帯なので地下室にある[写真17]と[写真18]の2台の熱交換換気システムである。[写真19]は室内の吸気口である。
写真17
[写真17] 熱交換換気システム1
写真18
[写真18] 熱交換換気システム2
写真19
[写真19] 室内の吸気口

 
 
◆◇ 太陽熱利用温水器
 
写真14
[写真14] 貯湯タンク
写真20
[写真20] 雨水を利用している洗濯機
写真21
[写真21] パネル工場主催の内覧会
 屋上に太陽熱集熱パネルがあり、その集熱でお湯をつくり地下室の[写真14]の400リットルの貯湯タンクに貯める。ここからの温水は風呂や食器洗いに利用される。[写真20]の洗濯機は雨水利用している。
 
 
◆◇ その他
 
 この家の建築費は629スイスフラン/m3(約5万2千円/m3)である。日本風に坪単価に換算すると約51万円5千円/坪であり、この坪単価の日本の家と較べると、実例1と同様に内容のグレードがすこぶる高い。
 
 エレクトロビオロギー計画最短配線計画を行っている
 
 筆者が見学に行った時は、パネル工場主催の建築家向け内覧会中でありその様が参考になった[→写真21]。
 
 
※スイスの住宅やパネル工場の紹介は、チューリッヒ在住のバウビオロギー建築家の佐々木徳貢氏の案内と資料による。
 
 
 
 

vol.011
vol.013