vol.15ミネルギーハウス(Q1プロジェクト)の実践


断熱・気密技術の実践マニュアルのこれまでと現在を述べてきたことによって、これから先の流れの傾向が見えてきた。 一つは、ヨーロッパの先進地のように断熱・気密性能がより高性能指向になっていく。 現状の次世代省エネルギー基準では満足できず、これまで紹介してきたスイスのミネルギーハウスのレベルである。

もう一つは、エコロジー・バウビオロギー指向で次世代省エネルギー基準レベルの、人や環境へのより低負荷な断熱材の自然系断熱材の使用の普及である。 自然系断熱材を使用したミネルギーハウスのレベルの両方が納得できる住宅の普及は未だ先であろう。

Q1プロジェクト (NPO 新木造住宅技術研究協議会)

我々は断熱・気密性能で、ヨーロッパの先進地のミネルギーハウスなどのような高性能化について指をくわえて見ているだけではない。

筆者が会員のNPO新木造住宅技術研究協議会ではQ1プロジェクトを進めている。 熱損失係数が1(W/m2K)を切るか、暖房用エネルギー消費量が次世代省エネルギー基準の半分の超高性能住宅を普及していく運動である。 単発な実験住宅をつくるというのではなく、一般的に普及させていくことである。

熱計算は簡易に計算でき実用的なNPO新木造住宅技術研究協議会が配布するQPEX[写真01]で計算している。

写真01
[写真01]

1  北広島の家 (札幌市郊外) Q値=0.681W/m2K

l 地域の札幌市郊外の野幌の原生林の丘陵地帯の端部に位置し、施工中で9月初旬に完成予定である[写真02]・[図01]。 人と環境に負荷が少ないエコロジー・バウビオロギー仕様である。

写真02
[写真02]
図01
[図01]

考え方

超高性能

Q値が0.681 W/m2K、 暖房用エネルギー消費量が3,053Kwh、 暖房用灯油消費量が318リットル、 1.60リットル/m2の超高性能住宅であり、 スイスのミネルギーハウス以上の性能である。 相当延べ床面積が199.35m2である。

エコ・ビオ

高断熱・高気密と地中熱と換気排熱回収熱を利用したヒートポンプにより極めて省エネルギーであることとCO2の削減になる。 断熱的に超高性能なばかりでなく、 エコロジー・バウビオロギー仕様であり、 軸組は十勝産カラマツ、 外装・床材・天井材は十勝産カラマツ、 小割材はエゾ・トドマツ、 塗り壁は珪藻土などの自然素材を使用している。

パッシブ (地中熱利用と換気排熱回収、他)

暖房は、[図02]の地中熱の利用と換気排熱回収[写真03・04]を利用したヒートポンプ[写真05]により暖められた温水を循環させる温水パネルヒーターによる暖房である。 他に熱的な換気の工夫は、冬は大きなガラスのアトリウムに取込んだ太陽熱でプレヒートされた空気が床下を通って室内を第3種換気する。

図02
[図02]
写真03
[写真03]
写真04
[写真04]
写真05
[写真05]

夏を涼しくすごす工夫[図03]は、夏の日射を長い庇で遮蔽し日射熱を室内に入れない。 野幌の原生林の丘陵地帯の端部にあり、風通しが良く、窓を開けた通風は腰屋根を使用した縦横の立体的な通風ができる。 施工中の現場の状況でも効果が大きい。 中間期の窓を閉めた場合の換気は床下で冷地熱によって冷やされた空気を導入し、腰屋根の高窓から排出する自然換気をする。

図03
[図03]

部位別の説明

断熱仕様

[図04]のように屋根が厚さ200mm高性能グラスウール24kの屋根充填断熱、 壁が厚さ100mm+50mm高性能グラスウール24kの付加断熱、 基礎がダンネツの「かんたんベース」の厚さ50mm+50mm(両面)ビーズ法ポリスチレンフォームの基礎断熱と厚さが50mmの押出法ポリスチレンフォームのスカート断熱である。

図04
[図04]
開口部仕様

窓類は北欧のLow-Eトリプルガラス木製サッシで、大型のテラス戸は工務店製作のLow-Eペアガラス木製サッシである。 アルゴンガスはガス抜けによる性能劣化を恐れから、建主の希望で採用していない。 熱的に弱点な大型のテラス戸などは熱抵抗0.214 m2K/ Wのハニカムサーモスクリーンで断熱補強している。

暖房方式 (地中熱利用+換気排熱回収熱利用)

暖房はキーテック工業の地中熱と換気排熱の双方を利用する[図02]ハイブリットシステムである。

図02
[図02]

地中熱の採熱管の埋め込みには、 住宅の基礎杭を施工する時に用いる堀削機を利用して、 庭に深さ8m(本来は10m)の8本を堀孔した。 これまでの地中熱利用の本格的な堀孔は深さ100mで、 100万円から120万ほどしていてかなりの高額であったが、 住宅の基礎杭の技術を応用したキーテック工業の方法では30万円前後ででき、 身近な価格になってきた。

仕組みは、換気側の熱交換ユニット[写真03]と地中熱ヒートポンプ[写真05]を冷媒配管で結び、換気排熱を冷媒で回収する。 ヒートポンプに内蔵したコンプレッサーで圧縮して暖房用の低温水を供給する。

写真03
[写真03]
写真05
[写真05]
換気

換気方式は、冬の第3種換気と夏・中間期のパッシブ換気又は通風の切り替えである。 冬は大きなガラスのアトリウムに取込んだ太陽熱でプレヒートされた空気が床下を通って室内を第3種換気する。 夏・中間期の窓を閉めた場合の換気は床下で冷地熱によって冷やされた空気を導入し、腰屋根の高窓から排出する自然換気をする。 夏・中間期の窓を開けた通風は腰屋根を使用した縦横の立体的な通風である。

第3種換気には、人がいない時や睡眠時に換気量が絞られ、過剰換気による過乾燥が相対湿度10%程度やわらげられるフランス製のアエレコ[写真4]を使用している。 アエレコは室内空気の汚れと比例する水蒸気量に反応し、換気量を調整する。 換気量の調整は、過乾燥をやわらげられると共に換気量が絞られることから失われる熱が少なくなり省エネである。 さらに、上述したようにキーテック工業の熱交換ユニットとヒートポンプで排気から熱回収する。

写真04
[写真04]

Q1プロジェクトとしてのポイント

現状の仕様を一般的な、開口部がLow-Eペアガラス樹脂サッシと第3種換気にすると、Q値が1.314 W/m2K,暖房用灯油消費量が1,379リットルになる。

開口部が木製サッシそのままで、 屋根の断熱材の厚さが現状では200mmで多少物足りないので、 厚さを300mmにするとQ値が0.033 W/m2K分の性能が向上し0.648 W/m2Kになり、 暖房用灯油消費量が48リットリ少なくなり270リットルになるが、 効果が少ない。

このように断熱材を厚くし木製サッシにしてもQ値が1W/m2Kを切るのは難しい。 これ以上に性能を向上させるには換気から失われる熱量を少なくしなければならない。 換気から失われる熱量は90.71W/Kで熱損失係数は0.46 W/m2Kで、ほぼ全部の開口部から失われる熱量の約2倍である。 北広島の家では第3種換気扇から熱交換回収で100%熱回収しているので、換気による熱損失は0なる。

2  鶴岡の家 (山形県) Q値=0.936W/m2K

lll 地域の鶴岡市の郊外位置し、施工中で12月中旬に完成予定である。 人と環境に負荷が少なくローコストなエコロジー・バウビオロギー仕様である。 筆者のアトリエが気にいっていることと、ローコストと高性能を考え、長方形のプランで片流れ屋根のすこぶる単純な形である。

超高性能

Q値が0.936 W/m2K、 暖房用エネルギー消費量が 5,844KWh、 暖房用灯油消費量が609リットル(2.87リットル/m2)の超高性能住宅であり、 スイスのミネルギーハウス以上の性能である。相当延べ床面積が165.20uである。

エコ・ビオ

熱効率が90%の高性能なドイツ製のスティーベルの熱交換換気扇を使用している。 断熱的に超高性能なばかりでなく、エコロジー・バウビオロギー仕様であり、外装・天井材は杉、床材はナラなどの自然素材を使用している。

断熱仕様

[図05]のように屋根が厚さ250mm+50mmの高性能グラスウール16kの屋根充填断熱と内側付加断熱、 壁が厚さ100mm+50mm高性能グラスウール16kの付加断熱、 基礎が厚さ50mm+50mm(両面)ビーズ法ポリスチレンフォームの基礎断熱と厚さが50mmの押出法ポリスチレンフォームである。

図05
[図05]

開口部仕様

開口部はLow-Eペアガラスアルミ樹脂断熱サッシである。 熱的に弱点な大型のテラス戸などは熱抵抗0.214 m2K/ Wのハニカムサーモスクリーンで断熱補強している。 予算的にアルゴンガス入りLow-Eトリプルガラスの木製サッシが使用できれば、開口部の熱損失が98.98W/Kから52.02W/K減り46.96W/K(47%)の半分以下に減少する。 全体のQ値が0.69W/m2Kになり、暖房用灯油消費量が264リットルに減少する。

暖房方式

暖房はFF式石油ストーブが1台の床下暖房である。

換気

換気方式は、 熱交換率90%の第1種のドイツのスティーベル社の熱交換換気システムであり、 熱損失が8.30W/K、 熱損失係数が0.04W/m2Kと極めて少ない。 第3種換気にすると熱損失が一挙に82.96K/Wと大きくなり、 ほぼ開口部の熱損失の98.98W/Kに相当する分が失われる。 全体のQ値が1.26 W/m2K、 暖房用灯油消費量が1,086リットルに増加する。

Q1プロジェクトとしてのポイント

換気を第3種換気にすると、Q値が1.286W/m2Kになり、1 W/m2Kを切ることはできない。 暖房用灯油消費量も1,086リットル(5.13リットル/m2)になり次世代省エネルギー基準の半分をわずかに切れない。 第1種換気の熱効率90%の熱交換換気システムにすると、Q値が0.936 W/m2Kになり,1 W/m2Kを切る。 暖房用灯油消費量が609 リットルになり次世代省エネルギー基準の半分に以下になっている。

3  吉祥寺の家 Q値=1.025W/m2K

lV 地域の東京都武蔵野市の成蹊大学に隣接した端正な住宅地に位置している。 10数年前に建てた現在の家が寒くて暑いので、暖かく涼しい家が希望である。

超高性能

Q値が1,025 W/m2K、 暖房用エネルギー消費量が2,088 KWh、 暖房用灯油消費量が217リットル(1.23リットル/m2)の超高性能住宅であり、 スイスのミネルギーハウス以上の性能である。 Q値は1W/m2Kを切っていないが、 暖房用灯油消費量が次世代省エネルギー基準の7リットル/m2の半分に以下の18%になっている。 相当延べ床面積が176.19m2である。

断熱仕様

[図06]のように屋根が厚さ200mm+100mm(外側)の付加断熱のセルロースファイバーの屋根充填断熱、 壁が厚さ100mm+50mm高性能グラスウール16kの付加断熱、 基礎が厚さ50mm(内側)ネオマフォームの基礎断熱である。

図06
[図06]

開口部仕様

開口部はLow-Eペアガラスアルミ樹脂断熱サッシである。 熱的に弱点な大型のテラス戸などは熱抵抗0.214 m2K/ Wのハニカムサーモスクリーンで断熱補強している。

暖房方式

暖房はエアコンが1台が床下暖房で、他の2台は冷房が主体になる他に暖房の温度調整に役立つ。

換気

換気方式は、第3種の熱交換換気システムである。 人がいない時や睡眠時に換気量が絞られ、過剰換気による過乾燥が相対湿度10%程度やわらげられるフランス製のアエレコ[写真4]を使用している。 アエレコは室内空気の汚れと比例する水蒸気量に反応し、換気量を調整する。 換気量の調整は、過乾燥をやわらげられると共に換気量が絞られることから失われる熱が少なくなり省エネである。

写真04
[写真04]

Q1プロジェクトとしてのポイント

Q値が1,025 W/m2Kと1 W/m2Kをわずかに切ることはないが、 暖房用灯油消費量が1.23リットル/m2で次世代省エネルギー基準の18%になっていることから、 第1種換気は必要ない。