齢(よわい)60を過ぎ、父親が亡くなった年齢を超えると、冬の室内の温度差がさらに恐ろしくなった。そのころ住んでいた自宅は築30年を超えており、設計当時も断熱気密を意識し始めてはいたが、未だ考え方も技術も熟れておらず夏向きの家であった。居間と寝室で局所暖房として石油ストーブを焚き、脱衣室で裸になっては震え、浴槽の熱い湯で体を暖める日々を過ごすというヒートショックによる死亡を身近に感じる生活であった。
まだまだ死にたくはない。そう思い、モデルハウスを兼ねた我が家「モデルハウス能代(2016)」の設計は明るく、暖かくすることで死なないための家、健康寿命をのばす家とした。
冬の日本海側は曇天が多いため、冬場の明るい陽射しにも強い憧れがあった。曇天が続く冬場でもライトシェルフと呼ばれる外付ブラインドの羽を調整することで天空光を反射させて室内を明るくすれば、鬱々とした気持ちを遠ざけることができる。
冬場は大窓からの時たまの日射と床下エアコン暖房、パッシブ換気を併用して自然対流によって建物全体を暖めて各室の温度差を1℃前後と少なくし、冬場のヒートショックの危険性を少なくした。
家の中の温度ムラによる体への負荷が減ると、ヒートショックだけでなくアトピーや喘息といったアレルギー、風邪、冷えといった日々のストレスも減り、結果として健康でいられる寿命がのびていく。
吹き荒ぶ雪を眺めながら、曇りでも明るく、暖かい居間で珈琲を楽しむという贅沢ができる。